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「生きがいについて」

 神谷美恵子さんのこの本は、1980年に初版が出て以来、読み継がれてきた。人が直面する苦悩とどのように向き合って、再構築された生きがいを見出していくか。この人生における大きな問題を、丁寧に解き明かそうとする試みである。

 ここ数ヶ月の間、今も含めて、わたしの心の動きはとても大きなものである。喜びと苦しみと悲しみと寂しさと、ありとあらゆる感情と思惟がめまぐるしくわたしのなかを駆け巡っている。

 あまりにも自由にならないこの自分の心をどうしたらいいのか。出張の旅程の空いた時間を使って、一気に読み終えた。この本の感想を述べていきたいが、感想にはなりえないような気がする。結局、書き進めながら、引用に終始するのみだった。この名著とわたしの心が同化していると言ったら不遜な気もするが、何を足すものも引くものもない、そういう気分なのである。


 まず、ここでは「精神化」について述べられている箇所(195頁~)を引用する。

「人間の精神の力ほど不思議なものはない…自分をとりまく環境にどのような不快なことがあっても、ひとは精神の翼にのって自由にあまがけることができる」

「現実の世界と精神の世界と、いわば両棲動物のように二つの世界にふたまたかけて生きているそのありかたは、あらゆる人間に多少とも見られる現象で、人間存在の二様性などとよばれ、すべて精神生活を持つ人間の、基本的な生活様式であると考えられている。」

「ただ、大部分の心身健康なひとは、現実の世界にしっかりと足をふまえ、そこで忙しい、充実した毎日を送る。精神の世界はもちろん存在するけれども、それはふつう現実の生活に対して従属的な位置をとる。」

「ところが…性格自体からして悩み多くうまれついているひとや、苦しみのなかにあるひとにおいては、「精神化」の傾向が強くなり、ふつうのひとの場合とはさかさまに、現実の世界のほうが精神の世界に従属してしまうことさえある。」

「ところで、どういうひとが精神化にかたむきやすいのであろうか。…すなわち、思索を好むひと、精神がゆたかで複雑なひと、抑制力がある程度つよく、敏感で感動しやすいひと、うまれつき内気なため、または外的な事情のため、行動にすぐに出にくいひとである、…このようなひとであると、欲求がすぐに行動に移ってしまわず、精神内部での多くの思考、反省、情緒、恐れ、希望などをひきおこし、それらが互いに組みあわさったり、対立したり、匡正し合ったりする。」

次に、心の世界のくみかえについて述べられた部分(258頁~)を引用した。

「心の世界のくみかえは、…急激な経過をたどるとはかぎらない。しかし、どんな経路にせよ、ひとたびこの変革がおこると、一般の人びととは多少とも異なった価値体系を採用することになる。そのため、現世のなかに以前のように埋没してくらすことはできなくなっている。そういう意味で、こういうひとはいわゆるアウトサイダーであり、一種の亡霊のようなものである。」

「本来行動的で陽性なアウトサイダーは、精神の「荒野」のなかでひとたび新しい生存目標と新しいよりどころを発見すると、もはやためらうこともなく、世人とはべつな価値体系を武器として現世へたちもどり、確信にみちて現世を征服し、支配しようとする高姿勢でたたかって行く。いわゆる正攻法であり、伝道精神である。」

「行動性に乏しく、もっと陰性なたちのアウトサイダーはどうであろう。このひとたちはもっと神経がせんさいにできていて、簡単にものごとを黒白にわり切れない。現世では居心地わるくて外へ出たにもかかわらず、どこかでまだ現世への郷愁やうらみや皮肉や憎悪の念がくすぶりつづけていて、すねたような態度をつくり出す。このひとたちは心の構造が複雑にできているため、自分たちが一応否定した現世なるものも、自分自身の内部に充分生きつづけていることをみとめるから、前記のひとびとのように、そう簡単にはべつの価値体系を他人におしつける勇気や自信がない。しかしこの矛盾した姿こそ、人間性そのものを正直に反映したものであろうから、もしこのひとたちに充分に表現力があるならば、彼らのなかからひとの心に訴える文学や思想がうまれ、それが現世へ大きな影響を及ぼすこともありうる。」

以上。

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