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売れない本の現状に思う

 オンラインジャーナルは学術機関が一括で購入して、所属員がネットでアクセスする学術誌の出版システムである。学術誌は一部の一流誌を除いて、それほどたびたび閲覧するものではない。だから、ネットでざっと眺められるのはとてもありがたい。抄録だけなら、それ専門のデータベースもあるが、さすがに論文を書こうとなると、必要なものは手許において目を通したい。従来なら、図書館にない雑誌は、数週間かけて取り寄せてもらっていたから、大きな進歩である。

 しかし、その購入費が図書館運営を圧迫している。それは最近の寡占が原因である。
 出版コストは確実に出版社を圧迫している。部数が少ない雑誌ほど、上がりが少ない。これは、専門書の出版も同じだろう。
 そこに目をつけた数社が、それらの弱小誌を買い取って、ごっそりオンライン化している。これは確かに便利なのだが、一方で寡占をいいことに価格のつりあげを図ってきたのだ。

 ところで、学術誌の編集において、論文内容の審査いわゆる査読は、雑誌の価値を決める重要なプロセスであるが、多くの学者・研究者の無償ボランティアが大きな部分を占めている。価格高騰を嫌って、学術機関は自前で出版しようと動き始めている。それもこれもネットの普及が電子出版のコストを下げていることも一因である。

 そう考えると、出版社の企ては失敗に終わったように見えるが、ちょっと違うかもしれない。
 彼らは、電子出版の学術分野における展開の速さを見越して、それを先取りして一気にこれまでの蓄積をお金に変えたのではないだろうか。

 多くの科学論文は数ページから十数ページであり、プリンターで印刷しても大したことのない分量である。もともと、紙の雑誌からコピーして利用することが多かったから、電子出版に適していた。これがもし多ページの成書なら、大部になると印刷や綴じるのも手間だし、電子ファイルで貰ってもいいリーダーがないから、まだ紙の媒体のものを買おうという気になる。


 ではページ数の多い本はどうなるんだろう。良書でも重版されなくて、出た瞬間に買わないと市場からなくなってしまう。だから古本屋は欠かせない存在である。希少な本を探すのは大変な思いをするが、最近はネットで検索できてとてもありがたい。
 その一方で、電子出版が注目されているが、専門書もそうなっていくんだろうか。そうではなくても、ネットで多くの情報が検索できる。本を買わなくたって、かなりの学術情報は手に入るとはいえ、それは結構細切れの情報である。

 となると、大部で網羅的な専門書も欠かせない。しかし、読み捨てるような勢いのベストセラーや学術論文とは違って、こいつらは電子出版になじまないように思うのはわたしだけだろうか。幾つかのページを行き来しながら、うんうん考える。幾つかのページをウィンドウ上に同時に開いておいて、クリックして考えるんだろうか。まあ、それでもいいんだけど、数部の受注出版が低コストで出来たらいいのにと思う。パチ本屋さんがこっちの仕事に回ってくれないだろうか。

 とはいえ、家の中が本で埋まっていくのは、始めは気持ちいいんだけど、段々スペースが手狭になって負担になってくる。書類も電子化しているとはいえ、全部スキャナーでPDF化っていうわけにもなっていない。未だに書類のコピーが学内便なんかでたくさん送られてくるからねえ。ファイルで送ってくれればいいのに…。

 話が逸れてしまった。しかし、売ることばかりが主眼に置かれているベストセラーの本が、売れないながらも価値のある書物を駆逐しているように思うのは気のせいなんだろうな。このあたりは流通の事情も絡んできそうで難しそうだな。

 ただ、学術専門誌に関して言えば、それで儲けようっていう先生方はあんまり多くないんじゃないだろうか。それなら、なんとか電子出版とそれをうまく使える手段が開発されれば、あまり問題はないんじゃないか。ただ他方、締め切りを作ってくれたり、さまざまなコメントをくれたり、校閲してくれたりする編集者の人たちの存在の大きさも、良書の出版にはかかわっているだろう。それを失うことで、ますます孤独な戦いになっていくということなんだろう。企業内ベンチャーとか分社化とか、単位を細かくしてそれぞれが少人数で頑張るしかない方向性って、本当のところどうなんだろうかね。そのあたりを受け持ってくれるような人が出てきても、彼らが生活できるようなシステムを考案しないといけないだろう…。

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